耳管開放症になってしまったようです:ダイビング医学に精通したお医者さんでないと診断がつかないことのある疾患

1月6日からミクロネシア連邦のポンペイ島に行って、3年ぶりに同地でダイビングをしました。ポンペイで滞在中に最大5日間ダイビングができる日程ではあったのですが、5日間連続だと疲れるので途中に休みの日を入れて4日間ダイビングをする予定でいました。ところが、久しぶりに潜るポンペイの海は素晴らしく、楽しいダイビングだったので、結局休みを入れずに5日間ダイビングをしてしまい、特に最後の日は普段は1日に2本を潜るところを、3本潜りました。

ところが帰ってから耳の調子が悪く(いつも耳抜きができていないいような状況で、ワンワンします)、どうも耳管開放症になってしまったようです。

実は耳管開放症になったのは、2度目で(だから多分そうだろうと推測できるのですが)、ダイビング後になった場合には、2−3週間放っておくと治るはずなのですが、でも耳の中はワンワンして気持ち悪いですし、(恐らくこれが原因とは思うのですが)頭痛もします。

耳管開放症については、後述するように耳鼻科の先生でもご存知ない方もいるようですので、前になった時の経験などを含めてお話ししたいと思います。

以前に耳管開放症になった時の話

もう7−8年ほど前になりますが、ダイビングクルーズに参加して、数日間シミラン諸島周辺でダイビングをしたことがあります。

ダイビングクルーズの場合、毎日潜りますし、潜る本数も一日3本から4本と結構ハードです。

日本に帰ってから、耳の調子がおかしくなりました。

今回もなったように、耳の中がワンワンする感じで、特に人の声や外の音は普通に聞こえるのですが、自分が喋ると声がにじんで聞こえる(二重に聞こえる)状況でした(今回はその症状はありませんが)。

なんだか気持ちが悪いので、近くの耳鼻咽喉科で診てもらいました。

先生に症状を伝えてから、聴力などいろいろな検査機器で調べてもらったのですが、特に異常値は出てきません。

先生も首をひねってしまって、こういう時のお医者さんの常套句の「少し様子を見ましょう」ということでお開きになりました。

明らかにダイビングに起因する症状であるのは確かですし、実はダイビングの医学というのはちょっと特殊で、普通のお医者さんでは判断できないこともあるとは聞いていましたので、DAN JAPANというダイビングの安全性の向上を目指した団体のWEBサイトを調べてみました。

そこにはダイビング医学に通じたお医者さんのリストが掲載されていましたので耳鼻咽喉科の先生がいないかと探してみたら、お茶の水のあたりにいらっしゃったのでそこに行ってみました。

その医院に行って、まず一通りの検査を受けてから、先生に症状を告げたら「ああ、耳管開放症ですね。ダイビングをやり過ぎるとなる方が多いです。実は決定的な治療法はないのですが、ダイビングでなった方の場合は2−3週間で治ると思います」とのことでした。

一応薬は出してもらいましたが、決定打になるものでもなさそうで、気休め程度の薬だったようです。

その後、2−3週間の間、耳の気持ち悪さを我慢していたら、いつの間にか治ってしまいました

「耳抜き」による気圧差の解消

耳の鼓膜の内側と鼻の間に「耳管」と呼ばれている管が通っています。

この耳管は基本的には閉じているのですが、なんらかの状況(たとえば唾を飲んだ時など)になると一時的に開きます。

なぜこういうメカニズムが必要なのかというと、鼓膜の内側(体の中)と鼓膜の外側の気圧を同じにするためです。

たとえば、なんらかの理由で外(外気)の気圧が下がってしまったとすると、体の中の気圧は元のままですから、その気圧差で鼓膜が外に膨らんでしまう恐れがあります。最悪の場合、鼓膜が破れてしまうかもしれません。(外の気圧が高くなって時には逆の現象が起きます。)

このようなことを防ぐために、体内と体外とで気圧差が生じた時には、普段閉じている耳管が開いて体の内外の気圧を同じにしてくれるのです(人間の体というのは、ほんとうによくできていますね!)

たとえば、飛行機の離陸や着陸の時に、耳がワンワンすることがありますが、これは急激な気圧差によるものです。こういう時には、唾を飲むとワンワンが解消される経験をお持ちの方も多いと思いますが、唾を飲むという行為によって耳管が開かれるわけです。

ダイビングの時にも「耳抜き」という行為をすることが大切ですが、これは潜降するときに水圧で体外の気圧が高くなり、体内の気圧は元のままなので、気圧差が生じます。そこで、やはり唾を飲むなどの「耳抜き」をすることで体内と体外の気圧が同じになるわけです。

耳管開放症:今の医療への苦言も少々

「耳管開放症」というのは、普段閉じている耳管が開いたままになってしまう病気です。

耳管が開きっぱなしになるので、自分が話をすると、自分の声が耳管を通って鼓膜の内側を振動させると同時に、音波が外から鼓膜の外側を振動させことになります。

自分の喉から耳管を通って鼓膜の内側に至る距離と、喉で発声された声が口を出て鼓膜の外側まで届く距離には差がありますので、自分の声が鼓膜の内側を振動させるタイミングと外側から鼓膜を振動させるタイミングにはごくわずかとはいえ時間差があって、そのために自分の話声は二重に気負えてしまうわけです。

しかし、他人の声は鼓膜の外側からしか入ってきませんから、二重に聞こえることはないわけです。

これが耳がワンワンする理由ですし、そもそも鼓膜などは全て正常ですから、いくら聴力等の検査をしても異常値は発見されないわけです。

少し今のお医者さんに対する皮肉を言っておきますと、今のお医者さんは検査に頼りすぎですね。だから、聴力等の通り一遍の検査をしても異常がなければ「どこも悪くありません。様子を見ましょう」ということになってしまいます。

もっと患者の話に虚心坦懐に耳を傾けて、「なぜ?」ということを追求していけば、別に遠くのダイビング専門医まで行かなくても良かったのかもしれません。

【追記】実はこの耳管開放症は原因がよくわからない病気なのですが、ダイビングをたくさんやった時以外にストレスなどでなる方もいるとのことです。特に歌手の方々で、舞台などで極度のストレスにさらされてなる人もたまにいるようです。こちらは少し深刻で、ダイビング原因のように2−3週間で治ることもなく、また自分の声(歌)が二重に聞こえてしまうため、音程が合わせられなくなるなど、仕事に差し支える事態にもなりかねないそうです。

投稿者プロフィール

佐々木宏夫(ささきひろお)
佐々木宏夫(ささきひろお)
早稲田大学名誉教授。フリーランスの研究者。専門は理論経済学+ゲーム理論。Ph.D(ロチェスター大学:指導教授はポール・ローマー(2018年ノーベル賞受賞者))
インターネットラジオvoicyでパーソナリティとして発信中(「佐々木宏夫のアカデミア紀行」)。
趣味はスキューバダイビング(2023年10月に600本を達成)。還暦を過ぎましたが、隠居にならないように、研究、教育、趣味等で頑張っています。2022年12月からは東京と石垣島の2拠点生活をしています。

詳しい自己紹介はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA